鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

映画『ワールド・ウォー Z』の製作に挑んだブラッド・ピットの苦闘についての翻訳記事が、GQ Japanに掲載されました

 GQ Japan2013年8月号の特集は「セカイ基準の男の作り方」。このグローバル時代に日本人は、そしてこの国はどうサヴァイヴすればよいのか? そしてそれを先導するリーダーをどう養成するのか?――というテーマについて、東京・世田谷のプリスクールや、京都・宇治の私立高校のユニークな試みが紹介されています。
 特に読み応えがあったのは、政治家・田村耕太郎氏と思想家・内田樹氏の対照的な教育論を見開きの左右ページに配した部分です。「とにかく海外に出て揉まれろ。日本人は地力は高いのだから世界でも戦える」と田村氏が説くいっぽうで、内田氏は、香港ローカルの武術を全世界向けにグローバル化したブルース・リーを範にとり、祖国の民族文化に深く根を張った上でグローバルな価値を発信する「余人をもって代え難い」人材を養成することが肝要。それには私塾による教育が適している、と持論を展開しています。
 文章の力もさることながら、見開きという紙の雑誌ならではのレイアウトを生かしたことで、とてもインパクトのある記事になっていると思います。
 これを電子化するとしたら、どんな見せ方をすれば効果的なのだろうか……とちょっと考えました。

 それ以外にも、いつもながら上質な記事ぞろいでページを繰る時間が特別なもののように感じられます。ザ・リッツカールトン大阪ホテルのバーの記事で、ワイングラスにロックアイスとバランタイン17年をいれて霜がつくまでステアし、その香りをたのしむフレグランスロックという飲み方が紹介されていましたが、まさしくそんなバーでのひとときのような読書体験です。

 フェラーリの記事にあった「世界で戦うために生産台数を絞る」というのは金言だと思いました。マーケットにちょっとした飢餓感を演出しつづけることで自社ブランドの価値を高めるというのです。
 日本のものづくりの進めべき道の一端がそこに示されているような気がしました。何も高級車に限ることはなく、たとえば焼酎や生産者直送の農産物でも、品質に絶対の自信があるなら、あえて「買いたくても買えない」ことを前面に押し立てて売るのも有効な戦略なのでは、と思った次第。

 高橋源一郎さんの連載は、「子どもホスピス」訪問記の前編。ご次男が急性脳炎にかかったときの体験を入口に、難病で入院中の子どものもとに日参する母親たちの表情がなぜだかとても明るいことにあるとき気づき、どうしてかと訊ねてみると、答えは「だって、可愛いんですもの」。ぐっと来ますね。

 翻訳記事では、ロンドン・パラリンピックで金メダルを獲得した義足のランナー、オスカー・ピストリウスが恋人を射殺した事件についてのものが掲載されています。障害者スポーツパーソンと聞けば、健気でまっすぐな努力家というイメージをつい重ねてしまいがちですが、誰の心にも暗部はあるもの。人間というものの業の深さについて考えさせられます。

 今回自分は、映画『ワールド・ウォー Z』についてのカバーストーリーの翻訳を担当しました。これは原作小説に惚れ込んだブラッド・ピットが製作者(プロデューサー)として挑んだ終末ホラー大作なのですが、華々しい表舞台ではなく、その裏側での映画製作の紆余曲折や関係者同士のごたごたを描いた記事です。
 ということで、情報的には価値の大きい記事なのですが、原文を1/3くらいに縮めているので、詰め込み過ぎで読みづらい部分はあるかなあと思います。
 特に今回は記事の性質上、多くの人物を登場させないわけにはいかないわけで、それがゴチャゴチャにつながっています。今から思えば、あと一人は削れたな、と反省しきりです。
 ですが、我慢して読めばいいことが書いてあるので、よければお読みくださいね〜。