鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

中東からヨーロッパへ押しよせる難民についての記事がGQ Japanに掲載されました

 GQ Japan2016年4月号の第一特集は「15人のカレーライフスタイル」。こうした特集はレストランガイドという側面では検索性や更新可能性、口コミ情報の追加などの点でネットに敗れ去る運命にもあるわけなのですが、もちろんGQのカレー特集はそんなところを狙っているわけではありません。著名人15人のカレーへの向き合い方やお店でのエピソードなどから、カレーの爽やかな酸味、スパイスの香りなどが立ちのぼってきそうな誌面構成になっています。それにフレンチや寿司などと違って比較的リーズナブルなお店の紹介が多いのも嬉しいところで、ハーフ芸人の植野行雄さんが紹介されてていた神田神保町の「キッチン南海」なんてまさしく学生御用達の大衆食堂です。
 調べてみるとこのキッチン南海、1966年創業のようで、自分も学生時代か社会人になりたての頃だかに食べに行った記憶があります。
 雑誌はレイアウトと文章と写真で構成されているわけなのですが、ここで感心させられるのは写真の力です。キッチン南海というのは大衆店の典型のような店なわけですから、素人がスマホで撮ればそれはいかにもという写真にしかならないわけです。それをこれだけ魅力的にみせているプロの写真の力というものを我々はもっと大切に考えていくべきだと考えたわけなのでした。
 こういった技術を軽んじて機械処理で安くできればいいという現代の体勢に安易に身をまかせていると、そのうちに手に入るのは自動撮影の愚にもつかない写真ばかりになって、鑑賞に値する写真は図書館で数十年前の雑誌や写真集を探さないと出会えないということにもなりかねないと危惧します。

 さて前置きが長くなりましたが、自分は中東難民問題についての翻訳記事を担当しました。
 昨年8月末にオーストリアで冷蔵冷凍トラック(たぶん日本でいう3tから4tくらいのサイズ)から71人の遺体が見つかるというショッキングな事件があり、それを核にした記事です。しかしあの事故は氷山の一角のようで、トラックの荷室に難民を詰め込んでこっそり運ぶという事例は後を絶たないようです。それには難民のあまりの急増を受けた各国の抑止策などの背景があり、ハンガリーセルビアクロアチアとの国境を鉄条網で封鎖したことが象徴的でした。そうした流れの果てに、11月にはパリで同時多発テロ事件が発生します。
 中東難民の問題は根深く、深刻で、もはやサイクス・ピコ協定で強引に引かれた国境を引き直すなどの根本的な対策が必要かとも思えます。
 そして難民問題は日本にとっても人ごとではありません。かつてはベトナムからのボートピープルを受け入れた事例もありましたが、近い将来に北朝鮮が破綻して大量の難民が発生する可能性もあるからです。現在の中東難民がトルコからギリシャ領へエーゲ海を渡るように、北朝鮮からの難民が日本海を渡ってくる事態も発生しないとは限りません。

 それはそうと、雑誌記事につきものなのは文字数との戦いです。
 今回の記事も、もう少し文字数に余裕があればエピソードに肉付けもできるのにと考えてしまうのですが、それはあくまで文筆職人としての物の見方です。雑誌はあくまでレイアウトという額縁のなかに文章と写真を組み合わせて作られるものですから、文章ばかりの誌面になってしまっては失格で、読んでももらえないでしょう。そのあたりで、まだまだ修行が足らないと感じたものでした。
 近くのページに載っていたデビッド・ボウイの追悼記事「追憶のジギー・スターダスト」はその点、短い文章でありながら印象的に仕上がっており、感心しました。「出火吐暴威」。この漢字の当て字が、なんとボウイに似合ったことか――という冒頭も含めて、非常に参考になりました。