鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

WIRED VOL.2に翻訳記事が掲載されました


 告知が遅くなりましたが、2011年11月10日発売の『WIRED』日本語版創刊第2号に翻訳記事が掲載されました。
 「知のシェア」というタイトルで、Mendelayという学術論文データベース/共有ソフトを開発した若き起業家たちに焦点を当てた記事です。

Googleがいい例だよ。Google以前にも、サーチエンジンはいろいろあったじゃないか」

という後援者の発言が象徴的で、できることは既存の同種ソフトと大差ないものの、かゆいところに手の届く各種機能を実装することでユーザーの絶大な支持を得たことが勝因であるようです。そのあたりの経緯が詳細に記されております。

 なお、創刊号の時にも書きましたが、480円という低価格でありながら記事のクオリティやレイアウトが素晴らしく、手に取ることで幸せな気分になれること請け合いです。特に、適度なざらつき感と柔軟性をそなえた表紙の手触りは絶品で、よくぞこの価格でここまで、と思ってしまいます(毎日持ち歩いて読みふけるうちに角が剥がれてきたので、コストダウンの工夫もいろいろとなされているのでしょうね、きっと)。

 巻頭のスティーブ・ジョブズ追討特集は14 Lessonsとのことで、ジョブズの偉大さや“普通じゃなさ”が14の切り口から語られており、簡潔でありながら読み応えもあって格好のジョブズ入門記事にもなっています。
 ほかにも北欧の歌姫ビョークによる音楽とiPodアプリの融合の試みや、自家製潜水艦による麻薬密輸などの興味深い記事が、フルカラーの写真満載で掲載されています。

WIRED (ワイアード) VOL.2 (GQ JAPAN2011年12月号増刊)

WIRED (ワイアード) VOL.2 (GQ JAPAN2011年12月号増刊)

「「読む」が変わる」というeBookの考察記事には、いろいろと考えさせられました。電子書籍は途中まで読んだところで放置されることが多く、めったに読了されない、とのことでしたが、物理的実体がないことが存在感の希薄さにつながるのでしょうね。
 紙の本にはパラパラめくり指検索という強力な武器もあり、写真や図版の多い雑誌や図鑑ではこれが絶大な効果を発揮します。そのあたりを含めて電子書籍が今後どう化けるのかに興味が尽きません。かつて音楽CDがレコードの売り場を毎年毎年浸蝕していったように、電子書籍が数年で紙の本を駆逐してしまうのか、そうではないのかを、これからの5年間くらいで確かめることが楽しみです。

 たとば本誌のジョブズ追討特集ではページの縁取りや見出し文字に銀色のインクが使われていて、手に持った角度による照明光の反射具合などは現状の液晶ディスプレイではとうてい表現できないものだと思いますが、そうした手触り感や見栄えについて言えば、かつてのLPレコードのジャケットはCDのパッケージよりも圧倒的な存在感をもっていました。たとえばイエスの『こわれもの』(Fragile)など(中学生の時にお年玉で買いました)は、観音開きにするとまるで屏風絵で、見惚れてしまうほどでした。CDのサイズではあの迫力は出るべくもないわけですが、だからといってLPレコードがCD時代にも一定のシェアを保つということはなく、ごく一部の愛好家向けにかろうじて存在するのみとなりました。

こわれもの

こわれもの

 ただ、LPレコードと違って紙の本は読む間ずっと触っているものですから、やはりモノとしての性質が違いますし……う〜ん、やっぱり未来は読めないですね。