鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

GameLink誌第3号に『帝都最後の恋』の書評を書きました

 どうも、なかなか更新できなくてすいません(汗)。
 5月20日ボードゲーム情報誌「GameLink」の第3号が発売され、我々の連載「戦鎚傭兵団の手柄話」の第2回が掲載されました。

Game Link Vol.3

Game Link Vol.3

 連載メイン記事は岡和田晃さんによる、マルチゲームにからめた世界の腹黒政治家の紹介です。『フンタ』や『クレムリン』といったゲームでのあくどいプレイなどまた可愛いと思えてくるほどの強烈な怪人たちがエピソード満載で紹介されています。

 そして自分は、「おれらの戦利品」というゲームにからめた書評コーナーで、『帝都最後の恋』を紹介しました。

帝都最後の恋―占いのための手引き書 (東欧の想像力)

帝都最後の恋―占いのための手引き書 (東欧の想像力)

 ナポレオン戦争の時代を舞台に、敵味方に分かれた2つのセルビア人家族をめぐる愛と復讐の物語――と、一言で要約すればそうなるのですが、この小説が面白いのは章立ての通りに頭から順番に読むこともできれば、章ごとにランダムジャンプして読むこともできることです。
 どういうことかというと、全二十二章がタロット・カードの大アルカナ22枚と1対1で対応していて、タロット占いの出札順に読むこともできるのです。本の巻末には切り離し式のタロットカードが付属し、三種類の占い方が案内されているという親切さです。
「真のエンディング」を目指してジャンプしながら読み進めるというのはまさしくゲームブックの手法ですね。
 ただしこの作品には明確に真のエンディングと呼べるものはありません。最終章には一応幕切れのようなエピソードはあるのですが、それが結局何を意味するのかは一読したくらいではとうていわかりません。かくて読者は謎解きのために再読することになりますが、一度や二度読み返したくらいではやっぱりわかりません。いや、何度読み返しても完全に謎が解けることはなでしょう。
 というのも、一章一章に対応するタロットカードの寓意が込められていて、登場人物も近代的自我をそなえた個人というよりは運命の糸に操られた人形といった趣で、口にするせりふもことわざのような遠回しなものばかりだからです。
 そこでおすすめの読み方は、一回目は章順通りに通読して、二回目以降はタロットを引いてランダムジャンプで読み進めることです。登場人物と同じく、読者も運命の糸に操られ、翻弄される感覚が味わえることと思います。

 ゲームブックが携帯アプリやNintendo DSなどに移植されていますが、iPhoneiPadなんかで読めるランダムジャンプの小説が出てくると面白いでしょうね。
 ゲームブックの醍醐味はパラグラフジャンプなわけですが、それを紙の本でやることになんか紐付きの紙飛行機で飛んでいるようなもどかしさがあったのですが、電子媒体ならばどこからどこへ飛ぶのかが物理的に見えないので、暗闇のトンネルに突っ込むような感覚が味わえるかな、と思ったことでした。もっとも、指セーヴという強力な「技」が使えなくなりますが……(でもきっと、しおり機能とか使えますよね)。

 最後に余談ですが、『帝都最後の恋』の作者ミロラド・パヴィッチは昨秋に惜しくも亡くなりました。書評を書こうと検索していてNew York Timesの訃報記事がヒットして驚きました。
 これは英語ですので、日本語のWikipediaにもリンクしておきます。

『ハザール辞典』などの実験作で知られ、セルビア筒井康隆ともいうべき方でしたのに、残念です。