鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

大切な書物

『救済の書』の7章「聖なる世界」の後半9頁は聖地と巡礼の解説にあてられています。エンパイアの主流神について、聖地の特徴や傾向が述べられたあとで、いくつかの巡礼路が紹介されています。

 今回はヴェレナに注目してみます。ヴェレナの聖地は学識と正義に関連したものが多く、前者の代表が破壊された図書館や学校を再建したもので、後者の代表は正義が際立ってなされた法廷で、エンパイアの法廷にはその資格のあるものはほとんどないそうですw あるとすれば、シュトライッセン(アヴァーランド)の旧法廷くらいだとか。

 学識と正義の両側面をそなえた聖地もわずかながら存在し、ヴルトバート(スターランド)の“賢者マリウス学院”がその代表です。著名な法学者にして十字軍戦士でもあったマリウスを記念して、500年以上前に建てられたものです。

 巡礼路はクーロンヌ(ブレトニア)のシャリア神殿へのものが詳細に解説され、あとはシグマー、マナン、ミュルミディア、タールらのものが簡単に紹介されています。
 最後に、「巡礼者」という基本キャリアが追加されています。どのキャリアからでも就くことができますが、「その時点で巡礼に出ていなければならない」という条件がつくので、まあNPC向けでしょうね。面白いのは、技能の選択に「〈大酒飲み〉または〈学術知識:神学〉」があることです。巡礼の旅をつづけながらも神について学ぶことに余念がない者と、飲んだくれになってしまう者と両方いるということでしょうか? こういうちょっとした部分でユーモアがわさびのように効いているのがウォーハンマーらしいです。

救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション (ウォーハンマーRPG サプリメント) (ウォーハンマーRPGサプリメント)

救済の書:トゥーム・オヴ・サルヴェイション (ウォーハンマーRPG サプリメント) (ウォーハンマーRPGサプリメント)

 さて今回の妄想ストーリーは、例によってあまり本筋とは関係ないですが、ご容赦ください。もとより【狂気点】の産物、オフィシャルの設定とは何の関係もない狂人の妄言ですので、どうかひらにスルーをお願いします。


大切な書物

 巡礼の老人はわたしの腕のなかで息を引き取った。切れ切れの息の合間に絞りだされた最後の頼みをわたしは心に刻んだ。
 老人が痩せ枯れた胸に掻き抱いていたのは革装の大冊で、四隅が金属で補強された上に南京錠で施錠されていた。ページの背は金色で、指のあたる箇所はこすれて紙の地色がみえていたが、表装には傷もへこみもなく、長年大切に扱われてきたことが窺えた。
 それは老人が長年庭番として仕えた伯爵の形見だという。伯爵は夕べの邸内散策の折にはきまってその書を抱えてあらわれ、木陰のベンチで読書にふけったものだった。眉間にしわを寄せてページを繰る伯爵を植え込み越しに眺めるたびに、きっと難解な処世訓が書かれているのだろう、旦那さまはあの書物を人生行路に道しるべとなさってきたに違いない――剪定鋏を握りながら彼はそう思った。
 しかし伯爵は日ごとにやつれ、頬がこけ、目ばかりぎらつくようになって、やがて帰らぬ人となった。葬儀と遺産相続会議の慌ただしい日々が過ぎ、ひっそりとした書斎で鉢植えの根の具合を確かめていたときのこと、遺族の誰からも見向きもされなかったのだろう、この本だけが机にぽつんと置かれているのを目にした老人は、伯爵の魂がさびしがっているように思えてならず、ぜひにと頼み込んで譲り受け、ヴェレナの聖地にその書を捧げようと旅に出たのだ。
 わたしは老人の瞼を閉じてやり、モールの国への旅路に困難がないことを祈った。
 帽子を目深にかぶりなおし、マントの前を掻き合わせて山越えの道に歩をすすめる。かくいうわたしもヴェレナの聖地を目指す巡礼者だ。ヴェレナは学識のみならず公正をも司る女神である。世の不条理に、行政の無情さに耐えかねた者たちは偏りのない裁きを求めてヴェレナに祈る。我が親友も無実の罪で街頭に吊るされた。彼が肌身離さず持ち歩いていた妻の肖像画のロケットをわたしは握りしめ、かならず聖地にとどけるのだと誓いを新たにした。聖地の神殿にある公正の秤にこのロケットを載せ、友の無念の重みをこの目で確かめたい――その一心だった。
 だが山はどこまでも深く、険路難路がうち続き、陽に灼かれ雨に打たれたマントは破れ、靴底には穴があいた。あちこちの巡礼小屋では疲れて歩けなくなった者たちがへたり込み、熱に浮かされたような目を泳がせていた。自分もいずれああなるのか――杖をつき、歯を食いしばって、そうはなるまいと歩をすすめた。
 しかし、わたしにもその時がやってきた。清冽な湧水のほとりに腰をおろし、甘い水を手ですくいとり、これほど心地のよい場所で死ねるだけでも幸運なのだとおのれに言い聞かせた。親友のロケットのことは残念だが、モールの国であいつに詫びることにしよう。だが、行きずりのあの老人の願いをかなえてやれないことが申し訳なくてならない。わたしを信じて託してくれたというのに……。
 せめて、どのような書物なのかだけは確かめておこうと思った。メモを残しておけば、他の巡礼者が聖地まで届けてくれるかもしれない。わたしは小瓶のコルクをぬき、中から鍵をとりだした。南京錠に差し入れてカチリと解錠し、伯爵の形見の重厚な表装をひらいた。

 ――処女鑑別方法*1
 十五歳前後の可愛らしく肉付きのよい娘を裸にして立たせ、背後に回って両腿の間に左手をこじ入れ、彼女の女陰をつかむ。しっかり閉じたその部分を押さえつけながら、右手の二本の指を尻の隙間から差しいれて窪みを押し開き、強く息を吹きいれる。息が通り抜けて左手に感じられるようなら娘は非処女、そうでなければ処女である。
 なお、差しいれた指が粘液にまみれたならその娘には淫蕩の気がある。左右の花弁がいびつであれば一人遊びの常習者とみてよかろう。口ひげを彼女の××××××に触れるか触れぬかに近づけて熱い息を吐きかけたなら娘は眉根を寄せてよがることあろう……。

 わたしは愕然としてページを繰った。どのページにも淫靡な記述がつづいていた。なんということか。伯爵の座右の書――何も知らない庭番の老人が後生大事に抱えてきた書物が、かようにいかがわしい艶書だったとは。
 わたしは人生の皮肉を嗤い、最後の力をふりしぼって、その書を泉へ投げ込んだ……。

*1:バルザック著/石井晴一訳『艶笑滑稽譚』の「ティルーズのおぼこ娘」の注釈に載っていたものをかなりパクッていることをお伝えしておきます。