鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

ピート・ローリック「海星作戦1962」の拙訳が、『ナイトランド・クォータリー Vol.15』に掲載されました

 ホラー専門誌『Night Lang Quarterly』最新号の特集は「海の幻視」! 海洋怪奇幻想小説やコラム評論、インタビューなどが一冊にびっしりと詰め合わされています。

 自分はピート・ローリック(Pete(r) Rawlick)の“Operation Starfish”という短篇の翻訳を担当しました。時は米ソ冷戦最盛期の1962年7月9日、ハワイ諸島の南に浮かぶジョンストン島という米領の孤島でStarfish Primeと呼ばれる核ミサイル発射実験が行われています。この史実に、当時のソ連指導者フルシチョフニクソン副大統領に発したとされる「クズキナの母を見せつけてやる!」という謎めいた罵倒表現をからめ、さらにラヴクラフトの作品世界に登場する人物や機械装置も出演させることで、ゴジラシリーズの怪獣映画にあるような緊迫感とスケール感を醸し出した作者の力業が光る短篇です。

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 ラヴクラフト作品から登場するのは、ウィンゲート・ピースリー(1900~1980)。「時間からの影」(「超時間の影」)の語り手ナサニエル・ウィンゲート・ピースリーの息子で、同作でもミスカトニック大心理学教授として父のオーストラリア調査行に同行する人物です。彼はブライアン・ラムレイの〈タイタス・クロウ〉シリーズでも重要な脇役になっているのですが、学識豊かで礼儀正しい老紳士という同シリーズでの描かれ方とはまた違って、本作ではterrible old manというあだ名そのままの偏屈な老人という人物設定になっています。

 ピート・ローリックの短篇はVol.11の「彼女が遺したもの」、Vol.12の「音符の間の空白」に続いて同誌で3回目の登場となります。家族の情愛をしっとりと描くこれまでの2作とはちがってガチの怪獣小説という趣で、正直固い部分もあるのですが、史実とラヴクラフト作品、クトゥルー神話諸作品を巧みにリンクさせてひとつの設定を破綻なく成立させているのはさすがです。きっとどこかで読んだり耳にしたりしたものがいろいろと出てきますので、そのあたりの元ネタ探しも楽しいものです。

 

 ところで今回、岡和田晃さんが映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズがらみの評論コラムをお書きになっていて、ちょっと驚きました。自分も映画館に通ったシリーズですが、一見ハリウッドの商業主義とご都合主義の権化のようにも思える同シリーズの制作の背景に、ティム・パワーズの海賊小説『幻影の航海』をはじめとする諸作品の影響があったのだとは! たいへん読み応えのあるコラムでした。

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 また、前述の〈タイタス・クロウ〉シリーズを翻訳された夏来健次さんのインタビューが巻頭カラーで掲載されていて、興味深く拝読しました。SF翻訳家の佐藤龍雄さんが夏来さんの別名義だとは自分も知らなかった!

 

 

ナイトランド・クォータリーvol.15 海の幻視

ナイトランド・クォータリーvol.15 海の幻視

 

 

 

 

 

タイタス・クロウの帰還―タイタス・クロウ・サーガ (創元推理文庫)

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