鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

前世が牛だったから超一流の人間にはなれないという説話から、現代人の我々は何を読み取るべきなのか?

 最底辺労働者は「今昔物語集 現代語訳」プロジェクトに参加しています。ずいぶん間が空いてしまいましたが、震旦(中国)篇の巻七第四話が本日掲載になりました。

 題して「神童が前世を知る話」。齢10歳にして『大般若経』二百巻をそらんじる神童が中国にいたのですが、残りの四百巻については出家得度後にどれだけ努力してもいっこうに覚えられません。いったいどうして……と思い悩むこの僧侶の夢枕に一人の僧が現れ、そなたの前世は牛だったので云々というお話です。

 現代人にとってはトンデモすぎてどう受け止めてよいやらという説話ではありますが、転生というのはさすがに非科学的にすぎるにしても、「鳶が鷹を生む」「蛙の子は蛙」というように、血筋がその人の潜在能力に影響を及ぼすというレベルに置き換えて考えたなら、能力の壁への説明としてある程度の説得力を持ちうるのかもしれません。

 つまりは血統学であり、競走馬に関してはかなりの理論化と体系化がなされている分野です。この馬の子や孫には短距離向きのスピードがあり、あの馬の子孫には長距離向けのスタミナがあるといったことが、馬券予想の大きな検討要素になっているのです。

 20世紀の最後の最後にG1レース9勝という大活躍をしたスペシャルウィークという馬がいました。父が「アメ車」サンデーサイレンス、母が「大和撫子シラオキ系のキャンペーンガールという配合の妙が競馬ファンの琴線を刺激して止まない馬なのですが、彼の母系の祖先である基礎牝馬の輸入をめぐる明治末の物語を脚色して短篇小説にしたてた作品に、小川哲さんの「ひとすじの光」があります。

 『S-Fマガジン』2018年6月号に掲載された作品なのですが、フィクションならではの嘘に小気味よさがあり、さすがは『ゲームの王国』で日本SF大賞山本周五郎賞に輝いた若手のホープだと感服したことが記憶に新しく、そのあたりについても言及しました。

 

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