鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

『トーキングヘッズ叢書 No.70』に書評三本を寄稿しました

『トーキングヘッズ叢書 No.70』が発売になりました。特集は「母性と、その魔性――呪縛が生み出す物語」というもの。そうです、母性です。これほど厄介で難しいテーマがあるでしょうか? とうてい自分ごときの手に負えるものでないと、特集コラムへの挑戦はハナから諦めた次第です。

まず母性と聞けば、誰もが自分と母親との関係をふり返り、その反省やら後悔やらに絡めとられて七転八倒した上でなければ先に進むことができません。そして出産を経験した女性であれば母性を自らの経験に照らして語ることができますが、その点ですべての男は語り手としての資格を半分欠いています。さらに「母」という概念には妙な神格化や個性剥奪的な部分もあって、どうにも淡々と冷静に語ることができかねる……ということでこの超絶難しいテーマに書き手たちがどう挑んでいるのかと、興味を持ってざっと通読しました。

するとまあ、やっぱり女性のほうが語り手として足が地に着いている印象がありましたね。ラブドールを妊婦にしたててその写真を東京芸術大学の卒業・修了作品展に出展したという菅実花さんへのインタビューにあった、「私がそこで興味があるのは体外人工子宮による女性からの妊娠の分離です。あるいは男性が妊娠する時代が来てもいいかもしれない」という発言にははっとしました。我々はSF的な未来像を考える中で、機械の身体や昆虫などに魂を宿して生きるというようなことはよく考えるのに、どうして女性を妊娠から解放するというもっと重要なことには考えが至らないのだろうと虚を突かれました。このあたりが「母」や「母性」についての男の逃げ腰な部分でダメだな〜と思いました。

梟木さんによる『「母性」のユートピア』は、男性(のはず)の手になる論考のはずなのに、語りがうわずっていなくて読み応えがありました。「処女」=「少女」=「母」という連環的なキーワードで古今東西の「母性」信仰を結びつけているところが見事でした。

そしてコンピュータRPG『MOTHER』を題材にした岡和田晃・田島淳・松元寛大・西村遼各氏による論考は一見奇抜なテーマですが、予想通りに読み応えたっぷりなものでした。

自分は湊かなえ『母性』、アニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』、深沢七郎『東北の神武たち』の書評を寄稿しました。まだまだ肩に力が入りすぎですが、挑戦は続きます。