「ナイトランド・クォータリー」に、SF作家ケン・リュウのEP短篇が掲載されました
ケン・リュウはテッド・チャンとともに、昇竜の勢いにある中国系SF作家です。短編集『紙の動物園』と、長編『蒲公英(ダンデライオン)王朝記』が日本語訳されていますから、すでにお読みになり、ファンになっている人も多いのでは?
そのケン・リュウが、SF-TRPG『エクリプス・フェイズ』(以下、EP)のアンソロジー『After the Fall』向けに書き下ろした短篇「White Hempen Sleeves」の訳が、『ナイトランド・クォータリーvol.06 奇妙な味の物語』に掲載されました。
作品のテーマはずばり、義体(¥¥るび:モーフ)の乗り換えと分岐体(¥¥るび:フォーク)作成。有名作家がゲームのアンソロジーに参加というと、世界観の上っ面をなぞるばかりでそのゲームの小説としての必然性にとぼしい作品をつい想像してしまいがちですが、なかなかどうして、EPの設定の核心部分に踏み込んだ作品です。そしてそのゲーム内設定がストーリーで重要なカギを握ってもいて、練りに練ったな〜という印象です。
ただし、血湧き肉躍るという感じのわかりやすい作品ではありません。どうか最初は辛抱して読み進めていただければと思います。そのうち徐々に盛り上がってきますので。
ところでこの短篇、原題は上に挙げた通りですが、邦題は「しろたえの袖(¥¥るび:スリーヴ)――拝啓、紀貫之どの」としました。前半は原題の通りですが、それではあまりにそっけないと考えて後半を追記した次第です。
SF短編に紀貫之? と思われたかもしれません。『紙の動物園』所収の「もののあはれ」にもあるように、ケン・リュウは日本の古典文学にも造詣の深い作家なのですが、この短篇の末尾にも紀貫之による古今和歌集の春歌の引用があります。なぜこの歌が? なぜ紀貫之が? と読者の頭が疑問符でいっぱいになるところなのですが、原文を何度も読み込んで自分なりにたどり着いた解釈があります。
EPに馴染みのない方も多いでしょうから、翻訳チームリーダー、岡和田晃さんによる世界観解説「トランスヒューマン時代の太陽系」も掲載されています。これは単なるゲーム紹介に留まらず、EP世界観形成の元になったサイバーパンク諸作品を横断紹介するものにもなっていて、たいへん意義深く、エキサイティングな文章です。
そしてまた、「ケン・リュウ書誌」もついています。これはTwitter小説アンソロジーへのほんのちょっとした寄稿も含んだもので、情報としての価値がきわめて高い力作です。
さてこの短篇の翻訳に当たっては、岡和田さんの監修を受けたほか、編集部の皆さまにも丁寧にチェックしていただきました。翻訳者が無名ではありますが、ぜひお読みいただければ幸いです。
本誌掲載の他の諸作品はまだ読めていませんが、拝読後、そちらについても報告できればと思います。取り急ぎ、ケン・リュウ短篇の紹介でした〜。
- 作者: ケン・リュウ,ニール・ゲイマン,ジョン・コリア,朝松健
- 出版社/メーカー: 書苑新社
- 発売日: 2016/08/26
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