鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

Google検索についての翻訳記事がWIRED Vol.7に掲載されました

 報告が遅れましたが、3月上旬に発売された『ワイヤード』誌に表題の翻訳記事が掲載されました。
 Vol.7の特集は「未来の会社」で、オフィスのイスをバランスボールにしたイタリアのTECHNOGYM社、森の中の秘密基地のような半地下でガラス張りのユニットをオフィスにしたスペインのSELGAS CANO社など、各社のユニークな試みが紹介されています。
 とりわけ、特集の冒頭にある「働く」ことと「雇用」を分けて考えるという提言にはうなずけるものがあります。
 クラウドソーシングが普及しつつある今、社員を固定で抱え続けるよりはプロジェクトごとに必要な人材を集める方がコストもかかりませんし、働く側としても会社に縛られずに済みます。テレワークが可能な業種であれば、たとえば生活コストが安くて自然も豊かな地方に暮らして働くこともできます。
 とはいえもちろん、プロジェクトごとの仕事ということは、仕事にあぶれればその期間は無収入という不安定さにも直結してしまうわけですが、いまの日本の会社に昔のように手厚い雇用を求めるのは酷という気もします。
 たとえば自分は現場での肉体労働をベーシックインカムとしているわけですが、このように誰もが嫌がる労働なら、仕事はいくらでもあります。時間を切り売りして報酬を得るにはそんな手もあると思います。空調の効いた室内でパソコンに向かってやる仕事では窺い知れない価値観を身をもって知るよい機会でもあります。

 話が脇にそれましたが、他にも分子ガストロミーを料理に生かしたスペイン人料理人フェラン・アドリアについての翻訳記事や、有名なセキュリティ対策ソフトの生みの親で破天荒な人生を送ったジョン・マカフィーについての翻訳記事など、読み応えのある記事が並んでいますので、興味を持たれた方はぜひ書店で手に取ってみてください。

 さてようやく本題ですが、ヤバい「検索」というくくりで、GoogleFacebookによる検索の試みについての翻訳記事が2件並んでいます。
 Facebookについては、「グラフサーチ」という新たな機能のことが語られています。まだ英語版のみのサービスのようですが、たとえば「ぼくが好きなものを好きな人」という検索ワードで該当する人を並べてくれるものです。Facebookは、膨大な情報量が内部にありながらGoogleなどのサーチエンジンがアクセスできないというある種特殊なウェブ空間なので、その中で検索が効率的にできるための取り組みには期待してしまいます。
 さてGoogleの方は、すでに広く利用可能なナレッジグラフ(Knowledge Graph)という機能と、その先の未来に向けた試みという2つの事項を主に扱った記事です。
 従来のGoogle検索は、検索文字列に対してヒット率の高いページから表示するというかたちを取っていましたが、「ナレッジグラフ」によってそのあり方が大きく変わりました。たとえば「タージマハル」は歴史的建造物であると同時に、音楽アーティスト名でもあり、あちこちのインド料理店やカジノの名前でもあります。それらが個別に「存在(entity)」と定義されることで、Google検索は「タージマハル」という文字列ではなく、その言葉で表される存在を探しに行くようになったのです。そして、検索者が探しているであろう存在がトップに表示されるようになりました。
 単なる機械的な検索から一歩進んだ、意図を読む検索の始まりです。

 さてGoogle記事の翻訳ですが、長い原文を限られた掲載スペースに収めるための紆余曲折がありました。
 自分は原文の情報量を一部落とす方向であちこちを削って提出したのですが、最終的にほぼすべての情報量が収められるかたちになりました。そのせいでぎゅうぎゅう詰めになって読みにくい箇所も散見されますが、よくぞこのスペースに収めて下さったものだと感心しています。ただ、一、二箇所は文意が変わってしまいましたが……。

WIRED VOL.7 GQ JAPAN.2013年4月号増刊

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