鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

「ダンジョン・ロード」が発売になります

 戦鎚傭兵団チームで翻訳を担当したボードゲーム「ダンジョン・ロード」が発売になります。もう店頭に並んでいるところもあるようですね。公式サイトはこちらです。また、ゲーム内容の詳しい紹介については以下のブログ記事が参考になるかと思います。
http://www.tgiw.info/2010/06/dungeon_lords.html
http://blog.livedoor.jp/familygames/archives/51519474.html
http://www.hobbyjapan.co.jp/game/?p=1196

ダンジョン・ロード (日本語版)

ダンジョン・ロード (日本語版)

 要は、ダンジョン・ハックの冒険者パーティと持ち受けるモンスター団を立場を180度入れ替えたゲームです。各プレイヤーが、RPGでは登場すらさえてもらえないダンジョン設計者・運営者の役割を受け持ち、予算の制約があるなかで資源や人材の確保に同業他社としのぎを削り、少しでもよい地下迷宮を築き上げようとします。ようやくできたダンジョンには冒険者どもが意気揚々と乗り込んできて、高いギャラで雇い入れた精鋭モンスターをタコ殴りで抹殺し、精巧な罠をためらいもなくぶち壊し、鼻歌交じりで帰っていくのです。彼らにできることは、冒険者の背中をにらんで拳を振り上げ、ダンジョンの補修と拡充に精を出すことくらいです……。
 基本的には4人のプレイヤーが各々ダンジョンを受け持って、ダンジョンの拡張や冒険者の撃退によって得点を競うゲームですが、3人プレイ、2人プレイもそれぞれ可能です。
 これによく似た電源系ゲームに「勇者のくせになまいきだ」というのがありまして、開発スタッフインタビューがなかなか面白かったのでリンクしておきます。

 さて本作ですが、なかなか作り込まれたシステムでやりがいがあります。特に戦闘には詰め将棋のような先読みの面白さがありまして、トラップとモンスターのコンボで冒険者たちのヒット・ポイントを削り、ダンジョン・タイル制圧手順になる前に疲労でばたばた倒れていただくのが王道ではあるのですが、トラップはシーフに解除され、ダメージはプリーストに癒されてしまい、おまけにウィザードの発動する呪文によってせっかくのたくらみが台無しに……なんてこともよくあります。そのため、シーフの多いパーティにはトラップは使わないとか、プリーストの治癒手順が来る前に狙い定めた敵を一気に殺してしまうとか、いろいろと考えどころがあります。戦闘にはルール修得用の練習問題がいくつかあって、それらを頭をひねって解くだけでもなかなかに楽しいものです。
 戦闘の前にはダンジョン構築とモンスターの雇い入れの手順があるわけですが、「トンネル掘り」「インプの徴募」といった個々の行動について4人のプレイヤーが入札する仕組みになっておりまして、たいていは二番手や三番手が一番有利で、一番手は損な条件になるので、できるだけ筆頭者にはなりたくないところですが、とはいえ入札枠は3人分しかないために、狙いすぎて四番手になると結局何もできずに終わるというジレンマがあり、そのあたりの駆け引きもまた面白いところです。

 言語依存度は、まあ高いと思います。いったん慣れればマップやタイル上のアイコンを頼りに内容が判断できるのではありますが、トラップ・カードの効果はいちいち説明文を読まなければなりませんし、ゲームに慣れるまでは首っ引きでルールを読み込まねばなりません。
 で、ルールブックには鬼軍曹的なデーモンとおかまっぽいミニオンの掛け合いが随所に挟まれ、フレーバーとしてなかなか面白いものがあります。デーモンのセリフはいかりや長介風に、ミニオンは怪物くんに出てくる(ざますざますの)ドラキュラ風にしてみたのですが、そのあたりは好みの分かれるところでしょうね。
 と、まあコミック風の体裁も手伝って一見取っつきやすそうなルールなのですが、実際の英文ルールは記述が非常にわかりづらく、解読に苦労しました。というのも、用語がなんとも未整理なんですね。いちおうほぼ統一はされている(けっこうブレもある)のですが、明確な用語定義がなされていないため、ルール文中の個々の表現が、実際のゲーム上の行動Aを指すのか、それとも行動Bを指すのかの判断に迷うケースが多々あり、読んでいて非常に強いストレスを感じました。
 翻訳ルールでは、できうる限りに用語を統一しようと思い、たとえば「ユニットを取り除く」ことを指す表現を、

冒険者の場合  :撃退
モンスターの場合:倒れる
(モンスターを表向きのままでねぐらに戻す場合には:撤退)

という風に統一したのですが、モレがあってカードに一件エラッタを出してしまいました。内容は公式サイトの左下部分をご覧ください。ゲームを買われた方がいきなり迷うことのないようにとどうにか発売前にエラッタを間に合わせたのですが、先行発売には間に合わず、お買い上げになった皆様にはどうも申し訳ありませんでした。
 システム自体はよくできた、いいゲームなので、ルールの書き方をもう少し工夫すればだいぶわかりやすくなると思います。用語をきちんと定義してサマリーを作るのもよいでしょうし、せっかく戦闘には練習問題があるのですから、それ以外の部分についても、途中まで読んだ段階で練習プレイをしてルール概念を身体で覚えられるようにしてくれると修得がスムーズになる気はします。
 昔のウォーゲームのルールにはそうやって段階的に修得できるようになっているものがよくありまして、たとえば「スコード・リーダー」という戦術級ゲームの場合、歩兵と機関銃の基本的なルールを読んだだけで最初のシナリオがプレイでき、それに盤外砲撃のルールを重ねて次のシナリオを、戦車のルールを重ねて次のシナリオを、という仕組みになっていました。

 日本語版の製作にあたって、そのあたりをもっと工夫できればよかったですね。できるだけ正確に訳すことで手一杯で、そこまでの余裕はなかったのですが、次回からの教訓にしたいと思います。

 そこで、boardgamegeekに掲載されている有志訳の日本語ルールブックの紹介です。
 こちらのサイト(Dungeon Lordsのトップ)から下段の「Files」までスクロールすると、世界じゅうのゲーマーがアップロードしたファイルが並んでいます。その中に、原書と同じレイアウトでPDF化された大変素晴らしい日本語ルールや、建設フェイズ/戦闘フェイズ*1/その他の簡潔なサマリーが用意されています。
 どちらも大変工夫の凝らされたもので、たとえばルールの方にはマジックアイテムの拡張ルールも別添されています。そしてサマリーは、上述のようにこのゲームの仕組みを理解することに大変役立つものです。
 最近はルール全文が公式サイトからダウンロードできる例もよくありますし、このようなユーザーサイドからの発信によって未訳ゲームがプレイできるようになり、既訳ゲームの不明点が正されるというのは歓迎すべき流れですね(まあ商売にまでしてしまうと著作権法などでややこしいことになりそうですが)。

*1:HJ社訳ルールでは、それぞれ「建設パート」「戦闘パート」です。