鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

ウォーハンマーRPGのリプレイ「魔力の風を追う者たち」がWebに再録されました

 かつてGame Japan誌に連載されていた岡和田晃さんによるリプレイ「魔力の風を追う者たち」の連載第一回記事が、このほどウォーハンマーRPG公式ウェブサイトに再録されました。今後も、「ゲームジャパン・記事アーカイブ」として過去記事が再録される予定とのことでして、ファンにはうれしい限りですね。
 公式サイトのトップからリンクをたどって、PDFファイルをダウンロードすることができます。ローカルに保存して何度でも読み直すことができますので、この機会に是非ご一読ください。岡和田さんご本人のブログでの告知はこちらから。

 さてリプレイですが、中堅魔術師の男性二人、魔女の女性一人、中堅ルーン鍛冶*1の(ドワーフの)女性一人と、ほぼ全員が魔法使いという異色なパーティ構成になっています。導入リプレイというと、人間、ドワーフ、エルフ、ハーフリングの4種族すべてがPCにあてがわれたり、戦士、僧侶、盗賊、魔法使いというオールスター総出演的なものになったりしがちなのですが、そこをあえて魔法使いずくめにしたことにGMとプレイヤーたちの意気込みを感じます。
 それもそのはず、本作の舞台、帝国首都アルトドルフは八大魔法学府のすべてを擁する魔術先進地域です。とうぜん、魔術と関わりをもつ人も他地域より圧倒的に多いはずです。かくて魔狩人に追われ、火あぶりにされかけた魔女レジーナの救出という過去の物語をフックに、救出に関わった仲間たちをパーティに、かつてレジーナを捕縛した魔狩人フレイザールパン三世の銭形警部のような宿敵に据えての冒険が始まります。連載第一回の焦点は、レジーナのルームメイトで街娼のドロテーアの行方を突き止めることです。このごろブレトニアの上流階級から贔屓にされているらしいドロテーアはその夜も着飾って夜の街に出ていったのですが、街では獣(ビースト)と呼ばれる連続猟奇殺人鬼の噂がささやかれ、通りには膿みくずれた馬の屍体が放置されています。そして悪疾をもたらしたものは……。
 Web再録を機に再読してつくづく感心したのですが、アルトドルフの喧噪やたたずまいが、NPCのセリフなどを通じて本当に良く描かれています。たとえば前述の「獣」はジャック・ヨーヴィルの小説『ベルベットビースト』に登場する切り裂きジャック風の謎の殺人者であり、まさしく背景設定である帝国歴26世紀のアルトドルフを騒がしていた旬の話題です。また、パーティ分割後の合流時間を決めるやり取りのなかで、PCのひとりが口にした以下のセリフなど、いかにもその世界の住民の視点を感じさせるものです。

 緑の月モールスリーブが、灰色山脈の向こう側に隠れたら、「蜥蜴とトランペット」亭に戻るとしよう。

ウォーハンマーノベル ベルベットビースト (HJ文庫G)

ウォーハンマーノベル ベルベットビースト (HJ文庫G)

 わずか雑誌4ページという紙幅で一回の冒険を描ききることは並大抵のことではないと思うのですが、きちんとオチがついていることもまた感心するところです。
 さて魔術師系四人のパーティは、D&D第4版にあてはめれば制御役三人+アーティフィサー(指揮役)一人といったところで、防衛役の不在が大いに痛いところではありますが、本作にはドワーフ海兵ガンツ三兄弟というNPCが登場して壁役を引き受けてくれるなどの工夫もあり、難敵相手の戦闘も見所たっぷりにはらはらどきどきで展開します。そう、背景描写や会話だけでなく、戦闘や技能の使用までも詳細に描かれていることもこのリプレイの凄いところです。まったくもって感心してしまいます。

 ちなみに魔術師ずくめのパーティ構成にはリプレイの掲載時期も影響しておりまして、元は秘術魔法系サプリ『魔術の書』と前後して発売された号に掲載されたんですね。そのため、土壇場の校正段階での訳語変更をリプレイに反映できなかったなどの事情もありますが、今回のWeb再録ではエラッタが当てられております。こうして後から容易に変更できることも電子媒体の強みですね。

魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー (ウォーハンマーRPGサプリメント)

魔術の書:レルム・オヴ・ソーサリー (ウォーハンマーRPGサプリメント)

 まあ夢を語るなら、元々4ページだったものをWeb再録を機に大幅ページ増で加筆するなんてのも期待してしまいますが、リーマンショック以後の不況には深刻なものがありまして、割高な輸入TRPG製品は売り上げが厳しく、なかなか思うようにはいかない現状があります。
 しかし、こうしてWeb再録が始まったということは、溶鉱炉の火は消えていないということでもありまして、今は苦しいところですが、「混沌の嵐」を耐えしのいで春の再来を待とうではありませんか。DAC愛知の会場でも少しお話ししたのですが、まだ正式に発表はできないものの、きっと、何かの動きがあります。

 話は変わりますが、8/15(日)に第6回オンリーコンが開催されますね。
 予約締め切りは8/8だそうです。自分は残念ながら今回は行かれませんが、ご都合のつく方はぜひ行かれてはいかがでしょうか? とてもフレンドリーかつ濃厚なオンリーコンですよ。マサキさんはじめ、スタッフの皆さんには本当に頭が下がります。

*1:正確にいえばルーン鍛冶は魔法使いではなく、武器、防具、護符のいずれかにルーンを刻銘することで魔力に類似した効果をおびさせるというドワーフ専用の職人的なキャリアですが、そのルーン刻銘による効果はなかなか強力で、敵のアーマーポイントを一切無視する、なんてのもあったりします。