鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』をより詳しく紹介

 ウォーハンマー世界における人類最大の敵、堕落と腐敗の四大邪神による勢力争いを扱う異色のボードゲーム、『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』(以下『COW』と略)の発売がいよいよ明日に迫りました。
 このゲーム、どこが異色なのかと言いますと、本来、英雄たちに立ちはだかる“敵”を主役に据えたことです。しかもただの敵ではありません。言うなれば、アフリカを寄ってたかって植民地にした英仏独伊のごとき国家級の超大物です。よって必然的に、ゲームの視点はオールド・ワールド全域を俯瞰する超マクロなものとなり、従来のウォーハンマー作品でプレイヤーが担当した一個人や小部隊などはミクロ化光線を当てられて縮んだかのように、地図盤上に埋没して見えなくなってしまいました。
 つまり、本作ではオールド・ワールドに暮らす者たちはマーカーとして間接的に表現されるだけで、主体的な行動は一切行えません。そして無人の荒野のごとき盤上を、コーン、ナーグル、ティーンチ、スラーネッシュ各々の下僕たちが我が物顔に動き回り、国々の支配をめぐって互いに戦い、国々の殲滅にむけてめいめい勝手に汚染トークンをばらまくことになります。
 混沌の神々を国家に置き換えれば、まさしく『ディプロマシー』型の陣取りマルチだといえます。そのあたりについて、今月末発売の『ゲームジャパン』誌に書かせていただきました。四強の争いということで記事ではナポレオン時代のヨーロッパ(仏英墺露)を喩えに出したのですが、上に挙げたようにヨーロッパ列強によるアフリカ分割の方が例としてより適切だったかもしれませんね。

ケイオス・イン・ジ・オールドワールド 日本語版

ケイオス・イン・ジ・オールドワールド 日本語版

 勝利条件には国の支配や殲滅によって50VPを獲得するか、邪神ごとの脅威ダイヤルを回しきってサドンデス勝ちするかの二通りがあるということは、前回の書き込みでも述べました。
 勝利得点(VP)にも、国を支配することによるVPと、国の殲滅に寄与したことによるVPの二通りがあります。前者はこの種のゲームによくあるもので、対象国に大兵力で攻め込み、敵対勢力との合戦に勝利した結果として得られるものです。
 後者はちょっと特殊です。混沌の神々は毎ターン、自分の勢力が存在する国に「汚染トークン」というチップを置くことができます。そのチップが帰属者を問わずに合計12枚になった段階で、堕落や頽廃、悪疾が社会の土台をも蝕んだことにより、その国はもはや花も咲かず実も結ばず、住民は混沌変異によって体躯がねじ曲がり、歌声は聞こえず哄笑のみが空しく響き、荒野に化生の跋扈する“混沌の領域”と化してしまいます。以後、その国からは支配によるVPが得られなくのですが、殲滅によるVPの大きさはそれを補って余りあります。
 たとえばノーシャや悪たれ平原のような辺境の小国は、通常の支配では1VPしか得られません。しかし殲滅が発生すると、その国に汚染トークンを一番多く置いていたプレイヤーが6VP、2番手が3VPと、大きな得点が得られます*1。ちなみにエンパイアのような大国ですと、通常支配が5VP、殲滅が10VP(2番手は5VP)とさほど劇的な違いはありませんので、小国ほど殲滅によるメリットが大きいと言えます。
 国家の殲滅は回数が記録され、5カ国が殲滅された段階で、核戦争の激化による放射能汚染の蔓延により人類は死滅します。あっ、いや、「核」なんて表現は使われていませんが、とにかく人類が滅亡に瀕することにより、邪神たちの勝利というかたちでゲームが終了し、その時点でのVPを比較して順位を決めます。
 このあたり、なんか『北斗の拳』や『マッドマックス』のようなポスト・アポカリプスの雰囲気を感じるんですよね。「ウォーハンマーRPG」にもそんな雰囲気はありますが、マクロ視点での国取りゲームでもそのテイストは健在です。
 なお余談ですが、汚染トークンを置くことができるのはカルティスト(邪教徒)フィギュアのみで、グレーター・ディーモンやディーモンは同じ国に何体いようがカウントされないというルールがあって、なるほどと納得させられます。ディーモンの類は合戦では活躍するものの、人心を堕落させるためには地域社会に紛れ込みやすい邪教徒の暗躍が欠かせないということです。こういうところで、さりげなくウォーハンマーらしさが再現されているわけです。


 脅威ダイヤルを回しきってサドンデス勝ちする方法ですが、ダイヤルを回せる条件(推奨行動*2)は邪神ごとに異なります。毎ターン、推奨行動を取るごとにトークンが1枚もらえ、ターン終了時に各人がトークンの枚数を比較して、最大の者が2段階、それ以外の者が1段階、トークンが1枚もない者は0段階ダイヤルを回すというものです。
 推奨行動は、コーン以外の三柱の神については、特定の条件を満たす国に汚染トークンを配置することです。特定の条件とは、ナーグルなら「“人口集中”の国」、ティーンチは「魔力かワープストーンが豊富な国」、スラーネッシュは「貴族か英雄が存在する国」です。いずれも、国の支配や殲滅にむけた布陣の一環として行われることで、陣取りマルチの力学と矛盾するものではありません。
 ところが、コーンの推奨行動は「ある国で敵フィギュア1体以上を除去する」であって、敵を除去しさえすれば自軍が全滅してもいいのです。しかも、敵を除去した国が1つあるごとにトークン1枚がもらえるため、合戦に勝って国を支配することなどハナから考えもせずに、下僕フィギュアをヒットマンのようにばらまく戦法がかなり有効です。国の支配でどれだけ遅れを取ろうと、コーンだけはサドンデス一本狙いで勝ててしまうからです*3
 言うなれば、コーン1人だけ勝利条件が違うゲームのようなものです。これがまた、上の核戦争の雰囲気とあいまって、なんかあの人っぽいんですよ。ほら……北の国のあの将軍様です。暴走の可能性をちらつかせて瀬戸際外交を繰り広げ、他国から譲歩を勝ち取ろうとする。なんか、そのやりたい放題ぶりがいかにも、です。


 そんな風にして、全7ターン(3人プレイなら8ターン)でゲームは終了します。ゲーム終了時にどの邪神も勝利条件を満たしていなかったなら、人類側の勝利です。このゲームでは人類の奮戦は「英雄トークン」などのマーカーや、イベントカードによって間接的に表現されるだけなのですが、「魔狩人団」カードが出ると、その国の汚染トークンを減らすことができるなど、TRPGやミニチュアゲームの英雄たちの活躍が透けて見えるような場面も多々あります。ミクロ化されて盤上に埋没してしまった個人たちが、そのようにして陰で動いているわけです。なんか、スペインのパルチザンがいつの間にかナポレオン軍に勝っていた、みたいな感じです。


 以上、乱文でしたが、『ケイオス・イン・ジ・オールドワールド』を改めて紹介させていただきました。最後に、これはフレーバーを知っていればいるほど楽しめるゲームですので、無料で読める媒体をいくつか紹介させていただきます。

アーミーブック:エンパイア
 ミニチュアゲームの設定資料で、読み物としても秀逸です。世界設定の中心となる「エンパイア」の歴史や地理を知ることができます。

アーミーブック:ディーモン・オヴ・ケイオス
 このゲームで登場するグレーター・ディーモンやディーモンについて詳しく知りたい方はぜひ。

Warhammer Onlineの無料短編小説
「スレイヤーの物語」と「チョッパの物語」の2編があります。ドワーフ冒険者と、うすのろオークが主人公で、混沌のディーモンたちは出てきませんが、参考までに。

*1:これは最初に殲滅された国の場合で、二回目、三回目と、殲滅順が後になればなるほど得点も大きくなります

*2:この表現鈴木康次郎さんからいただきました。的確ですね!

*3:実際にはスラーネッシュも、サドンデス狙いはできます。ナーグルとティーンチの推奨行動が汚染トークン2枚配置であるのに対して、1枚でよいからです。詳しくはまた別の機会に。