鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

Catcher in the Sewer(下水道探索者たち)【その1】

このところの蒸し暑さで【狂気点】が額の汗粒のようにたまりまして、妄想ストーリーをひとつ仕上げました。カルロブルクを舞台にした死霊術師狩りでして、『死』にまつわる同業他社であるモール教団と紫水晶の学府が一時的に協力して下水道から敵のアジトを目指す、というものです。

原稿用紙64枚にもなってしまいまして、コラム風小説どころか普通の短編と変わらない長さになってしまいましたし、はっきり言ってへたくそです。しかしまあこれが自分なりの【狂気点】解消の方法ということで、ご容赦願えればと思います。

ちなみにカルロブルクというのはアルトドルフからライク河を少しくだったところにある古都でして、距離の近さと川で結ばれている点から京都と大阪をなんとなくイメージしないでもありません。

カルロブルクはドラクヴァルト朝時代の帝都で、現在ではミドンランド第二の都市であるわけですが、そのあたりの歴史や地理については、『シグマーの継承者』に詳しく記されています。

シグマーの継承者 (ウォーハンマーRPGサプリメント)

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しかも何と、歴史解説の部分は無料サンプルのPDFで読むことができます。HJ社の皆さん、太っ腹なご対応をありがとうございます。

では、以下が本文です。もとよりオフィシャルの設定とは何の関係もない狂人の妄言、【狂気点】の賜物ですので、どうかひらにスルーをお願いいたします。



 Catcher in the Sewer(下水道探索者たち)

  『お針子(Sewer)が下水(Sewer)でちゃぷちゃぷ隠れんぼ。どんなに上手に隠れても、ちゅうちゅう司厨長(Sewer)にゃ見つかるよ』
        ――エンパイアの童謡

 カルロブルクはライク河にめんした歴史ある都市だ。往古にチュートゲン族によって築かれたこの街は、ドラクヴァルド朝諸帝の統治下では帝都だった。それは黒死病の大流行をへてエンパイアが衰退の坂道を転がりはじめた時期にあたり、やがて帝都がナルンに遷り、僭称女帝オッティリアが独立を宣言したことによって、三皇帝が覇を競う大分裂時代が長くつづくことになる。
 敬虔帝マグナスが渾沌の軍勢を撃退しエンパイアが昔日の国威を盛り返してから二世紀半がたったいま、帝国首都は初代皇帝シグマー以来二千数百年をへてアルトドルフへと戻り、当代皇帝カール・フランツの善政の恵みが国土の端々にまで行きわたりつつあった。いまやカルロブルクはミドンランド領に組み入れられ、冬と狼の神ウルリックの聖都ミドンハイムにつぐ第二の都市の地位に甘んじていた。しかしカルロブルクはライク河に面し、アルトドルフから近いこともあって、河口の入り江にあるマリエンブルクからライク河を遡上してくる商船が港で落としていく積み荷と金で、繁華と殷賑を極めていた。
 エンパイアは森の国、最果て山脈に源を発したライク河も陽光燦々たるアヴァーランドを抜けるや暝い森に呑みこまれ、樹林を切り裂くようにしてナルン、アルトドルフと流れてくる。ここカルロブルクでも、防壁の外はいちめんの大森林。樹齢数百年という古木がねじくれた枝を広げる妖しの森にその沼があった。ライク河が増水するたびに水が流れこんできてできた古い沼地だった。市街のすぐ近くにありながら、その沼は文明に穢されることなく、霧と静寂につつまれていた。
 沼地のただなかに一隻の豪華客船が係留されていた。その名も〈蒸気船〉亭。豪華客船を模して建てられた高級旅亭で、ドワーフ蒸気機関を利用した暖房の配管が全館に張り巡らされているという噂もあった。甲板のような屋上はビアガーデンになっており、南国の踊り子が腰をくねらせて踊ったり、エスタリアの旅一座が剣舞を披露する舞台もあった。甲板からは前後の艦橋のような高楼もそびえており、その各階をしめる客室の窓からはライク河を染める夕日が眺められるという話だった。またそれ以外にも、ライク蟹の蒸し焼きが評判のレストランもあり、窓際の席はつねに上流人士らの予約で埋まっていた。さらに、シャンデリアの燭光が水晶のさいころをきらめかせる大賭博場もここの呼び物のひとつで、街中とちがって当局のうるさい規制に煩わされることもなく、美女をはべらせた金持ちたちがテーブルに金貨を積み上げていた。
 かように凝った店のつくりにふさわしく、〈蒸気船〉亭を訪ねる者は沼の岸から渡し舟に乗らなければならなかった。夜、船着き場から沼に漕ぎだした舟の乗客たちは、きまってぽかんと口をあけ、無数の灯火でその輪郭をあらわにした不夜城の威容に見とれるのだった。
 そして今、この宿に潜入しようとする探索者たちがいた。地上からでは渡し舟に乗らないと近づけないため、地下から近づこうと考えたのだ。カルロブルクの下水道に詳しいネズミ捕りを案内役として雇い、一行は地下トンネルを進んでいた。

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