鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

ナーグルさまが見てる

【業務日誌(鳩山花子)】2009年5月18日(月)。課長以下三名は国際展示会で水曜日まで出張。小沢主任から咳が止まらないので休むとの電話連絡あり。

週明けの月曜日、四つの机が無人とあってうちの課には祭りの後のような静けさと寂しさがただよっています。関西地方で新型インフルエンザの感染者が激増していますが、この地方でもいつ感染者が出ないとも限りません。手洗いうがいを励行し、極力予防に努めましょうね。

本日午後、大阪の西日本事業部から二名が出張でお見えになります。状況が状況ですので今朝一番で電話して確かめたところ、重要かつ緊急を要する案件なので、マスクを着用して予定どおり向かうとのことでした。万が一の社内感染を避けるため、わたしが駅まで迎えに出て、そのまま支店には寄らずに取引先まで案内します。わたしが菌を持ち帰っては元も子もありませんから、十二分に注意しますね。では、そろそろ出かけます。

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あたしは走った。長い髪をなびかせ、舗道をヒールで踏みならして。頬がゆるむのを抑えきれない。天を仰いで歓喜の叫びをあげたいくらいだ。手にはチャックつきの透明な袋。いわゆるジップロック。そのなかに大阪の課長が鼻をかんだティッシュが入ってる。

取引先の会議室で、あたしはそっとゴミ箱からティッシュを拾った。指先がねばっとしてオエって思ったけど、大切なものなのだから仕方ない。これがあれば、あたしはナーグル教団で認めてもらえる。これを侍祭さまに届ければ、きっと祝福が授かれる。ああ、腐敗の神、尊父ナーグル、あなたの元へ参ります。

このティッシュから、侍祭さまは「ナーグルの腐れ病」の菌を作ってくださる。やがて悪疾が蔓延し、肉体に膿の花が咲き、そこから可愛いナーグリングが出てくることだろう。そして汚穢が川をなし、あの方の化身、グレート・アンクリーン・ワンがその川を下ってくるに違いない。

あの看板が目印だ。今や禁制の看板。それがナーグル教の目印。あそこで侍祭さまが待っている。

あたしは呼び止められた。なに? 忙しいんですけど。魔狩人? なにそれ? そんなの今の日本にいるわけないでしょ。え? それならナーグルなんて神もいるわけないって? それは違うよ。おじさん、そんな厳つい顔してなに言ってるの。ちょっと、なんでそんなに袖を引っ張るの。忙しいって言ってるでしょ。放して、放してってば……。

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ウォーハンマーのサプリを訳していると、こんな妄想がいろいろ湧いてきます。ちなみにこれはオフィシャルの設定とは何の関係もありませんし、愚にもつかない完璧な妄想、【狂気点】の賜物ですので、どうかスルーしてくださいますようくれぐれもお願いします。

「ナーグルの腐れ病」について、該当箇所の一部を引用します。

 どんな病気でも定命者を、腐敗の主が両手を広げて待ち受けるところへと走らせるものだが、ナーグルの腐れ病(『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』P.142を参照)ほどその効果がはなはだしいものはない。この悪性疾患は、消化器系統に大災厄をもたらすものだ。柔らかい組織に痛みをともなう横疣がぼつぼつとでき、かならず高熱をともなう。患者の多くが狂気を発症し、そうでなくても、病気の酷い症状を避けようとしばしば自殺を試みる。ナーグルの腐れ病による死はゆっくりと訪れ、時には数週間を要して患者を蝕んでいく。なお悪いことに、ほぼ例外なく変異も併発され、運良く平癒した患者でさえもが、魔狩人の用意する火刑の柱に縛られての猛烈な死を希求することになるのだ。

ええと、病名の訳語につきまして、原文はNeiglish Rotなのですが、『ウォーハンマーRPG 基本ルールブック』の時点では「ナーグル腐敗病」と訳していたものを、その後社会思想社旧版とウォーハンマー・ファンタジーバトルに合わせて「ナーグルの腐れ病」に変更した経緯があります。こういうミスが多く、ユーザーの皆さんにご面倒をおかけするばかりで申し訳ありません。