鞭打苦行のThrasher

翻訳者/ライター/最底辺労働者、待兼音二郎のブログであります

『救済の書』にただよう生活感

ウォーハンマーRPG」は、中世ドイツがモデルの“エンパイア”という国を中心にしたダーク・ファンタジー作品です。

魔法が存在する時点で非現実の世界であることは自明なのですが、とはいえ作中には生活感が濃厚にただよっています。中世ヨーロッパ史に詳しいスタッフが揃っていることもあるのでしょうが、鏡に手をのばしたら向こう側の世界に吸い込まれてしまった、と思えるような妙な現実感があります。

5/30に発売される『救済の書』は、生活に根ざした宗教がテーマであるだけにとりわけ現実感が濃厚です。ウォーハンマー世界は多神教なので中世ヨーロッパとはかけ離れているはずなのに、なぜか違和感がない。不思議です。
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『救済の書』のなかで、今日は海洋の神マナンの教団への入信儀式を取り上げてみます。

 入信者がもはやいつでも司祭になれるまでに経験を積んだことを最終的に確かめるために、導師は大嵐が来る前にその者を船のマストや埠頭の先端に縛り付ける。司祭になろうとする者は、頭だけしか動かせないように縛り付けられ、荒れ狂う嵐の猛威に耐えた後で、まる一日太陽に(あるいは凍てつく風に)さらされる。その嵐の間、マナンの王冠を模した銅の冠を入信者がかぶることもしばしばある。その者が冠の着用に値せず、ひいては教団の勤めに値しないと判断した場合には、マナンはまばゆい怒りの閃光でもってその者を襲う。この儀式を生き延びた者は、マナンの憤怒と気まぐれ、残忍さ、そして威厳を思い知る。嵐が来なかったからといって、入信者は試練を免れるわけではない。その場合、入信者は船首像代わりに舳先に結びつけられるのだ。過酷な訓練で鍛えられてきたとはいえ、多くの入信者がこの最終選考で死亡する。また、生き延びた場合でも多くの者がこの道に見切りをつけ、海と、気まぐれな神に永遠に背を向けるのだ。


なんか、いかにもありそうです。こういう記述に触れるうちに、あれこれと妄想がわいてきます。骨太の世界観がウォーハンマーの魅力です。

※オールド・ワールドの神々について、翻訳チームの鈴木康次郎さんが興味深い考察を発表されています。怒らせると災厄がもたらされるから神を崇める、なるほどです。
http://d.hatena.ne.jp/Yasujirou/20090517/1242571518